目的関数を疑う②|投資を「始めた後」は、いつ見直せばよいのか?

―「変えないこと」を正解だと思っていた自分を振り返る

前回の記事では、第二子の育児休業をきっかけに、これまで続けてきた資産形成について考え直したことを書きました。

「老後のために、今を細くしすぎていないか?」

そして最後に、「私はいったい、何を最適化しようとしているのだろう」という問いを残しました。

この問いについて考えているうちに、もう一つ気になったことがあります。

私はこれまで、資産形成を「始めること」や「続けること」については、それなりに考えてきました。しかし、「始めた後、どこかで立ち止まって方針そのものを見直す」ことについては、あまり考えてこなかったように思います。

なぜでしょうか。

今回は、資産形成をどう見直すべきかではなく、なぜ私は「変えないこと」を、どこか正解のように捉えていたのかを考えてみます。

資産形成について、「始め方」の情報は多い

NISAをきっかけに、資産形成について調べた経験がある方も多いと思います。

資産形成について調べていると、「NISAとはどのような制度なのか」「何に投資するのか」「いつ始めるのか」「長期・積立・分散とは何か」「毎月いくら積み立てるのか」といった情報を目にする機会が多くあります。

私自身も、そうした情報を参考にしながら資産形成を続けてきました。

一方、今回あらためて考えてみて気になったのは、その「始めた後」です。

資産形成を始めて何年か経つ間に、家族が増え、住まいについての考え方も変わり、将来やりたいことについても以前より具体的に考えるようになりました。

それでも資産形成については、最初に決めた方針をそのまま続けることを、私はかなり自然なこととして受け入れていました。

なぜ私は「変えないこと」が正解だと思っていたのか

その理由を振り返ってみると、これまで自分が触れてきた情報も影響しているように思います。

資産形成について調べる中で、私は、相場が大きく下落した局面でも積み立てをやめず、その後も継続した事例を肯定的に紹介するコンテンツに多く触れてきました。

そこでは、「相場が下落しても慌てて売らない」「短期的な値動きに振り回されない」「暴落時にも淡々と積み立てを続ける」といった考え方が、シンプルで分かりやすいメッセージとして示されていました。

私自身もそうした情報に影響を受け、相場が大きく動いたからといって、短期的な値動きを理由に投資方針を頻繁に変えないことを意識するようになったのだと思います。

この考え方そのものを、今になって否定したいわけではありません。

むしろ、今回気になったのはその適用範囲です。

私はいつの間にか、

「市場が変動しても、短期的な値動きを理由に方針を変えない」

という考え方を、

「資産形成では、最初に決めた設定を変えない方がよい」

というところまで、少し広く受け取っていたのではないか。
そんな気がしてきました。

「市場が変わる」のと「自分が変わる」のは同じなのか

ここで、二つの変化を分けて考えてみます。

一つは、市場側の変化です。株価が下落する。相場が荒れる。短期間で評価額が大きく動く。

もう一つは、自分側の変化です。家族構成が変わる。住まいについての考えが変わる。働き方について考えるようになる。これからお金を使いたい対象が変わる。

前者に対して、「短期的な変動に反応して方針を頻繁に変えない」と考えることと、後者に対して、「最初に決めた資産形成の設定を変えない」と考えること。

私はこれまで、この二つをあまり明確に区別していなかったのかもしれません。

しかし、よく考えてみると、両者はかなり性質が違います。

市場が変動しているのか。自分を取り巻く条件が変わっているのか。

少なくとも、この二つを同じ「変化」として扱う必要はなさそうです。

言い換えれば、私が十分に区別できていなかったのは、市場という外的環境の変化と、自分自身を取り巻く内的環境の変化だったのかもしれません。市場の短期的な変動に振り回されないための「変えない」という考え方を、家族構成や住まい、働き方、必要資金、価値観といった自分側の条件が変化した場合にも、知らず知らずのうちに広く適用していたように思います。

「続けること」と「変えないこと」は同じではない

二つを分けて考えてみると、自分の中でも少し整理できてきました。

私はこれまで、「資産形成を続ける」ということと、「最初に決めた設定を変えない」ということを、かなり近いものとして捉えていたように思います。

しかし、必ずしも同じではありません。

ここで私が考えたいのは、「積立額をいくらに変更すべきか」「どの程度のリスクを取るべきか」といった具体的な方法ではありません。

気になっているのは、そのもう一段手前です。

「相場が変わっても変えない」という考え方を、私はいつの間にか「自分を取り巻く条件が変わっても変えない」というところまで広げていなかったか。

第二子が生まれ、家族4人での生活が始まったことで、私はその違いを強く意識するようになりました。

前回書いた住まいについての考え方も、その一例です。

以前は、「子どもと一緒に暮らせるのは十数年しかないのだから、そのために大きな住宅費を負担する必要はない」と考えていました。

ところが今は、同じ「十数年しかない」という条件を、「十数年しかないからこそ、その時間を家族に合った住環境で過ごすことにお金を使う意味があるのではないか」と考え始めています。

条件そのものが変わったわけではありません。自分がその条件に与える意味や重みが変わっています。

そうであれば、資産形成だけを以前とまったく同じ前提で考え続けてよいのか。
そこに、今回の違和感があります。

NISAより先にあったはずのもの

このことを考えながら、改めて金融庁の資料を読んでみました。

金融庁は、資産形成について考える際に、まず自分のライフプランを考え、それに必要な金額や時期を考えることを示しています。また、NISAの利用についても、ライフプランやライフステージを踏まえて資金ニーズを考え、NISA以外の選択肢も含めて方法や制度を組み合わせることが重要だとしています。 [1] [2]

言われてみれば、当たり前の順序です。

ライフプランや資金ニーズがあって、そのために資産形成がある。資産形成の手段の一つとして、NISAがある。

ところが、自分自身の行動を振り返ると、この順序が少し逆転していたようにも思えます。

NISAを使う。積み立てる。それを継続する。

そうした行動は繰り返してきた一方で、その前段にあるはずの**「何のために?」**という問いを、同じように繰り返していたわけではありませんでした。

金融庁の資料を読んで感じたのは、「だから資産形成を見直すべきだ」ということよりも、自分がいつの間にか、目的を確認することよりも手段を継続することの方を強く意識するようになっていた、ということでした。

「道半ば」で考えるということ

もちろん、資産形成には、いつか資産を使ったり取り崩したりする「出口」があります。
ただ、今の私は、そこにいるわけではありません。

まだ本格的に資産を取り崩す段階ではない。一方で、資産形成を始めたばかりでもない。

道半ばです。

始めたときには、その時点で考えられる目的や前提条件がありました。しかし、その後に生活が変わり、自分自身の考えも変わってきました。

それでも「長期なのだから続ける」という言葉だけを取り出せば、以前と同じことを続けるのが合理的にも見えます。

では、何を変えず、何が変わったら見直すのか。
私はこれまで、この境界をほとんど考えてきませんでした。

そこで今のところ、資産形成の「道半ば」に、一つの問いを置いてみようと思います。

「始めた当時から、何が変わったのか?」

何年ごとに確認すべきなのか、どの程度変われば方針を変えるべきなのか。まだ、そこまでの答えは持っていません。

ただ、私自身には、「変えないこと」を前提にする前に、変わったものがないかを確認する工程が抜けていたように思います。

この工程を、このシリーズでは仮に「中間レビュー」と呼んでみます。

出口を考えるのは、出口に到着してからでなくてもよい

私はこれまで、資産形成について「途中で変えないこと」にかなり意識を向けてきました。

しかし今回振り返ってみると、変えない方がよいものと、変化したなら改めて考えてもよいものを、十分に区別できていなかったのかもしれません。

相場が変わったのか。自分が変わったのか。

少なくとも、この二つは同じではなさそうです。そして、資産形成の「出口」を考えるのは、出口に到着してからでなくてもよいのかもしれません。

道半ばで一度、

「何のために始めたのか」

「始めた当時から、何が変わったのか」

と問い直してみる。では、そのとき、何を見ればよいのでしょうか。

資産額でしょうか。積立額でしょうか。NISAをどれだけ使えているかでしょうか。

そもそも、それらは「目的」なのでしょうか。それとも、目的に近づいているかを確認するための「指標」や、目的を実現するための「手段」なのでしょうか。

次回は、ここを「目的」「KPI」「手段」に分けて考えてみます。

参考資料

[1] 金融庁「資産形成の基本」(アクセス:2026年9月20日)

[2] 金融庁「NISAを利用する皆さまへ」(アクセス:2026年9月20日)


− 執筆者 −
鳥形 啓輔
 メーカーで研究開発を経験した後、現在は知的財産部門で技術・特許情報の分析に携わる技術士(金属部門)。技術者として仕事や社会、キャリア、日々の意思決定について考えたことを、完成された答えだけでなく、問いや迷い、試行錯誤も含めた「思考のフットプリント」として記録しています。
 → [技術士事務所トリテクノサービスについて]

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