維持する技術⑤|保全はどこまで進化するのか

― センサ・AI・データ活用が変える現場の判断 ―

保全は「壊れてから直す」だけではない

前回は、補修溶接の難しさについて整理した。

補修溶接は、損傷部を埋めるだけの作業ではない。対象となる材料は、すでに使用履歴を持っている。高温、圧力、腐食環境、繰返し荷重、水素環境などによって、材料組織や機械的性質が変化している場合がある。既設構造物には拘束条件や残留応力があり、補修によって新たな熱履歴が加わる。現地施工では、作業環境、工期、予熱、溶接後熱処理、検査条件にも制約がある。

だからこそ、補修溶接では、材料劣化、拘束条件、残留応力、熱履歴、施工条件、補修後検査、記録管理を含めた総合的な判断が必要になる。補修溶接は、単なる復旧作業ではなく、設備を安全に使い続けるための再設計である。

この考え方を一段広げると、保全そのものの見方も変わってくる。

保全は、壊れた設備を直すことだけではない。設備の状態を把握し、損傷の兆候を読み取り、補修や交換の時期を判断し、必要な記録を残し、次の保全判断につなげる活動である。

本稿では、センサ、非破壊検査、ドローン、ロボット、AI、データ活用といった技術を取り上げる。ただし、個別技術の詳細を網羅的に解説することが目的ではない。ここで考えたいのは、それらの技術によって、保全判断がどのように高度化しつつあるのかである。

電力設備を例にすると、設備の高経年化、熟練技術者の高齢化や減少、点検の高度化・効率化への要求が課題として指摘されている。また、点検では、き裂、減肉、摩耗などの経年変化に着目し、変化が確認された場合には、その劣化メカニズムを究明し、非破壊検査により現在の状態を把握し、劣化曲線を当てはめて健全に利用できる期間を評価する考え方が示されている。[1]

つまり、保全は「壊れてから直す」ものから、「状態を見ながら判断する」ものへと広がっている。この変化を捉えることが、今回の主題である。

状態を見える化する技術

保全の高度化の出発点は、設備の状態を見える化することである。

第2回では、非破壊検査を「壊れる前に見つける技術」として整理した。非破壊検査は、設備を破壊せずに、きず、割れ、減肉、腐食、劣化傾向などを把握する技術である。

これに加えて近年は、センサやモニタリング技術によって、設備の状態を継続的に把握する取り組みが進んでいる。

たとえば、電力設備の配管減肉管理では、従来、プラント停止中の定期点検期間に、足場の組立、保温材の取り外し、検査箇所のマーキングなどを行ったうえで、ポータブルな超音波肉厚測定器により肉厚を測定していた事例が紹介されている。これに対し、薄膜超音波センサと無線機能付き連続肉厚測定装置を用いた遠隔モニタリングシステムの開発により、運転中の配管肉厚測定データを遠隔地から確認できる取り組みが報告されている。[1]

ここで重要なのは、単に測定方法が便利になることだけではない。一度の検査では、その時点の状態しか分からない。しかし、同じ部位を継続的に測定し、過去のデータと比較できれば、損傷が進んでいるのか、安定しているのか、急激に変化しているのかを判断しやすくなる。

保全において重要なのは、データを取ること自体ではない。取得したデータが、補修時期、交換時期、点検周期、運転条件の見直しといった判断に使える形になっていることである。

センサは、設備の状態を継続的に見るための技術である。非破壊検査は、設備内部や表面の状態を確認する技術である。これらが組み合わさることで、保全は「点で見る」ものから、「時間軸で見る」ものへと変わっていく

設備の状態を一度だけ見るのではなく、時間変化として捉えること。そこに、保全高度化の出発点がある。

ドローン・ロボットが現場を変える

保全現場では、人が簡単に近づけない場所が少なくない。

高所、狭隘部、高温部、海上構造物、長大な配管や橋梁、煙突、タンク内部など、人が直接点検するには危険や負担が大きい場所がある。こうした場所では、ドローンやロボットを用いた点検技術が有効になる。

橋梁・トンネル分野では、国土交通省の「点検支援技術性能カタログ」において、画像計測技術、非破壊検査技術、計測・モニタリング技術、データ収集・通信技術などが点検支援技術として整理されている。[3] これは、橋梁・トンネル分野における点検支援技術が、人の目視を単に置き換えるだけでなく、画像取得、計測、非破壊検査、モニタリング、データ収集・通信を含む技術群として位置づけられていることを示している。

電力設備の例でも、タービン発電機内部の点検にロボットを活用する取り組みが紹介されている。タービン発電機の精密点検では、従来、回転子を引き抜く分解作業を伴い、1か月程度を要する場合があった。これに対し、回転子と固定子の狭い隙間で利用可能な点検ロボットにより、外観目視検査や固定子鉄心検査などを行う技術が報告されている。[1]

また、送電線巡視・点検では、ドローンを用いた設備画像の取得や、AIによる画像診断への期待が述べられている。一方で、飛行時間、衝突回避、電磁界の影響、気象変化、飛行管理、通信、判定精度などの課題も指摘されている。[1]

このことから、ドローンやロボットは、それだけで保全判断を完結させる技術ではないと考えられる。

重要なのは、どこを、何の目的で、どの精度で点検し、その結果をどのように評価するかである。移動体としての性能だけでなく、搭載するセンサ、取得データの品質、点検対象へのアクセス性、位置情報の記録、過去データとの比較可能性が重要になる。

ドローンやロボットは、人を置き換える技術というより、人が入りにくい場所を見に行き、判断材料を増やす技術である。

その価値は、移動すること自体ではなく、人が見に行きにくい場所の状態を、安全に、再現性よく取得する点にある。

AIは保全判断をどう支援するのか

保全技術の進化を考えるうえで、AIの活用は避けて通れないテーマである。

AIは、検査画像の異常候補抽出、腐食やき裂の判定、超音波信号の解析、振動データからの異常検知、運転データの変化傾向の把握、点検優先順位の推定などに活用され始めている。

ただし、ここで重要なのは、AIが技術者の判断をそのまま置き換えるわけではないという点である。

非破壊検査業務におけるデジタル技術の実装例として、渦電流探傷試験のデータ解析にAIを活用した事例が報告されている。熱交換器伝熱管の渦電流探傷試験では、波形データの解析が解析実施者に依存し、解析数量の増加や見落とし防止のためのダブルチェックが負担になる場合がある。この課題に対し、画像認識をベースとした欠陥検出や、オートエンコーダによる異常検知が検討されている。[4]

同報告では、特定条件下でのAI予測や異常検知の有効性が示されている。一方で、学習データのパターンが少なく、汎化性能が不十分である可能性も指摘されている。さらに、非破壊検査結果の解釈・評価には、通常、JIS Z 2305に基づく有資格者や同等の有資格者が必要とされることが多いため、AIの予測をそのまま結果として受け入れることはできないと述べられている。[4]

この事例から言えるのは、AIの役割は、技術者の判断を不要にすることではなく、解析実施者の負担を減らし、見落としを抑制し、判断材料を整理することにある、ということである。

AIにとっても、入力されるデータの品質は重要である。位置情報が曖昧な検査写真、条件が不明な厚さ測定値、補修履歴と結びついていない検査記録では、将来の判断に使いにくい。逆に、部位、日時、測定条件、損傷内容、補修方法、運転履歴が紐づいたデータが蓄積されれば、AIによる解析や傾向把握の精度も高めやすくなる。

AIは、保全判断を自動化する魔法の道具ではない。

現場で蓄積された検査・補修・運転データを整理し、技術者が判断するための補助線を引く技術として捉えるべきである。

記録がデータになると、保全は変わる

第3回では、補修後の確認と記録が次の保全につながると述べた。第4回では、補修溶接において施工記録と検査記録のトレーサビリティが重要であることを整理した。

この「記録」は、保全の高度化において非常に重要である。

従来、点検記録や補修記録は、帳票として保管されるものと見なされがちであった。しかし、部位、損傷内容、測定値、写真、補修方法、施工条件、検査結果、運転条件が結びついて蓄積されれば、それは単なる記録ではなく、将来の保全判断に使えるデータになる。

非破壊検査業務の実装例では、石油精製プラントや石油化学プラントの定期検査において、従来、紙で運用していた記録用紙や図面をデジタルデータで運用し、クラウドサーバ上で一元管理する取り組みが報告されている。記録はクラウドサーバと同期されるため、現場対応終了後、短期間で状況を共有でき、緊急性の高い腐食や損傷を検出した際には、現場からほぼリアルタイムで状況を共有できるとされている。[4]

大型浮体構造物のデジタルツインを用いたアセット健全性マネジメントの事例では、実機計測・検査データ、目視検査、補修履歴、積付条件、海象データなどを収集し、デジタルモデルを更新し、余寿命、リスク、保全メニューの検討に活用する構想が示されている。[5]

このような考え方では、検査記録や補修履歴は、単なる過去の記録ではない。設備の現在状態を評価し、将来の損傷進展や保全対応を検討するためのアセット情報として扱われる

RBMの考え方も、この流れと整合する。火力発電ボイラへのRBM適用事例では、診断部位の選定、損傷メカニズムの定義、運転・検査・補修履歴データの収集を行い、リスクを算定する手順が示されている。また、リスクは相対的な指標であり、メンテナンス計画の意思決定の機能を果たすツールとして用いることが望ましいとされている。[2]

データ活用の出発点は、高度なAIシステムを導入することだけではない。まず、現場で得られた情報を、後から使える形で残すことが重要である。どの設備の、どの部位で、いつ、何が起こり、どのように対応したのかを追跡できることが、保全高度化の基礎になる。

記録がデータになると、保全は個別対応から知識の蓄積へ変わる。同じ損傷の再発防止、類似設備への水平展開、点検周期の見直し、補修方法の改善、予兆管理の高度化につながる。

補修記録や検査記録は、単なる帳票ではない。将来の保全判断を支える技術データである。

技術動向は、特許情報からも読み取れる

保全技術の変化は、技術解説文献、企業技報、公的研究開発資料だけでなく、特許情報からも読み取ることができる。

特許情報には、企業や研究機関がどのような課題を見て、どのような解決手段を検討しているかが表れる。ただし、特許出願の件数は、市場規模や技術の優劣をそのまま示すものではない。検索式の設計によって結果は変わるため、あくまで技術動向を眺めるための一つの手がかりとして扱う必要がある。

本稿の執筆にあたり、J-PlatPatを用いて、保全技術に関する国内特許文献を簡易的に確認した。詳細な検索式、件数推移、出願人傾向、共同出願から見える連携については、補足ページ「J-PlatPatで見る保全技術の動向メモ」に整理した。[6]

補足ページでは、保全技術を三つの観点に分けて確認した。第一は、ドローンを用いてインフラや構造物を点検する技術である。これは、人が近づきにくい場所を安全に見に行き、画像や計測データを取得する技術と位置づけられる。第二は、非破壊検査にAI、人工知能、機械学習を適用する技術である。これは、取得した画像、信号、検査データを解析し、異常候補や損傷状態の判定を支援する技術と位置づけられる。第三は、点検履歴、検査履歴、補修履歴、点検データ、検査データなどを、保全支援、維持管理支援、健全度評価、劣化予測に活用する技術である。これは、点検や補修の記録を、次の保全判断を支える情報基盤として扱う技術と位置づけられる。

この整理から、保全技術は「現場を見に行く技術」「取得データを解析する技術」「記録や履歴を次の判断に使う技術」へと広がっていると考えられる。ただし、これは検索式に基づく簡易調査からの解釈であり、保全技術全体を網羅的に示すものではない。

重要なのは、特許情報から見える変化が、保全業務の流れと対応している点である。すなわち、点検対象へアクセスする、データを取得する、解析する、記録する、次の判断に使うという各段階に対して、異なる技術分野の事業者が関与している。

特許情報は、保全技術の全体像を断定する材料ではない。

しかし、保全技術が「取得」「解析」「活用」の流れとして広がっていることを確認する補助線にはなる。

ただし、最後に判断するのは技術者である

センサ、ドローン、ロボット、AI、データ基盤は、保全を大きく変える可能性を持っている。人が行きにくい場所を見に行き、継続的に状態を監視し、異常の候補を抽出し、過去の記録と比較し、点検や補修の優先順位を整理する。これらは、保全現場にとって大きな価値がある。

しかし、技術が高度化しても、最後に判断するのは技術者である。

大型浮体構造物のデジタルツインの事例では、実機計測・検査データや海象データを用いてデジタルモデルを更新し、ダッシュボードで余寿命、リスク、リスク最適な運転・保全メニューを提案する構想が示されている。一方で、最終的にはオペレータを中心とする人間系が、リスク最適な提案メニューに対して独自の洞察を踏まえた見直しを行い、実機の運転と保全を計画・遂行する流れになっている。[5]

RBMの実機適用事例でも、ソフトウェアに必要なデータを入力すれば自動的に答えが得られるわけではなく、専門家や熟練者が参加し、保全現場や運転者などの意見を取り入れながら評価する必要があると述べられている。[2]

これは、デジタル技術が保全判断を自動的に完結させるものではなく、技術者や設備管理者の意思決定を支援するものであることを示している。

センサには計測範囲と誤差がある。非破壊検査には検出限界がある。AIには学習データへの依存がある。ドローンやロボットには移動できる範囲や環境条件の制約がある。データベースには入力漏れや記録のばらつきがある。取得されたデータを過信すれば、誤った判断につながる可能性もある。

保全判断では、データの背後にある損傷メカニズムを理解する必要がある。腐食なのか、疲労なのか、クリープなのか、応力腐食割れなのか。材料は何か、溶接部なのか、熱影響部なのか、補修履歴はあるのか、運転条件は変わっていないか。これらを理解して初めて、データは意味を持つ。

AIやデータ活用が進むほど、技術者には別の役割が求められる。すなわち、データを読み解き、現場条件と照らし合わせ、過大評価も過小評価もせず、設備を安全に使い続けるための判断を行う役割である。

保全の高度化は、人を不要にすることではない。むしろ、人の判断を支える情報を増やし、より良い判断を可能にすることである。

まとめ:維持する技術は、現場知とデータをつなぐ技術である

本シリーズでは、「維持する技術」を、検査、補修、補修溶接、保全高度化という流れで考えてきた。

第1回では、インフラやエネルギー設備の高経年化を背景に、設備を安全に使い続ける技術の重要性を整理した。第2回では、非破壊検査を「壊れる前に見つける技術」として位置づけた。第3回では、検査結果を補修、交換、監視、運転条件見直しといった判断へつなげる考え方を整理した。第4回では、補修溶接が単なる手直しではなく、材料劣化、拘束、熱履歴を踏まえた技術判断であることを考えた。

そして第5回では、保全がセンサ、ドローン、ロボット、AI、データ活用によってどのように高度化しつつあるのかを整理した。

保全の高度化は、単に新しい装置やAIを導入することだけではない。現場で得られた検査結果、補修記録、施工条件、運転履歴、損傷事例を、次の判断に使える形で蓄積することから始まる。

現場知がデータとなり、データが判断を支え、その判断が次の保全につながる。

維持する技術とは、古い設備を延命するためだけの技術ではない。材料、構造、溶接、検査、補修、運転、データをつなぎ、設備を安全に使い続けるための技術である。

新しい設備を作る力と同じように、既存設備を適切に維持し、必要に応じて補修し、使い続ける力もまた、社会インフラや製造基盤を支える重要な技術である。

次回は最終回として、維持する技術を支える人材、技能継承、記録管理、組織的な保全体制について考える。

参考文献・情報源

[1] 西沢孝壽, "電力設備の健全度評価における非破壊検査の現状について", 日本機械学会誌, Vol.123, No.1215, pp.18–21, 2020年.

[2] 富士彰夫, "RBMの火力発電用ボイラへの適用事例", 圧力技術, Vol.45, No.3, pp.154–161, 2007年.

[3] 国土交通省, "点検支援技術性能カタログ(橋梁・トンネル)", 令和8年3月.

[4] 藤田涼平, 佐野川美咲, 山邉正太, "非破壊検査業務におけるデジタル技術の実装化", 圧力技術, Vol.63, No.1, pp.15–18, 2025年.

[5] 松本俊作, 杉村忠士, 寺田伸, 宮崎智, 石井秀和, 塚原啓介, "大型浮体構造物のデジタルツインを用いたアセット健全性マネジメントシステムの開発", 三菱重工技報, Vol.61, No.2, pp.1–10, 2024年.

[6] 筆者, "J-PlatPatで見る保全技術の動向メモ ― ドローン点検・AI検査・保全データ活用の簡易調査 ―", 技術士事務所トリテクノサービス, 2026年9月.

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