維持する技術③|補修という選択肢
― 検査結果を、使い続ける判断へつなげる ―
検査で見つけた損傷を、どう扱うか
前回は、非破壊検査を「壊れる前に見つける技術」として取り上げた。設備や構造物を破壊せずに状態を把握し、きず、割れ、減肉、摩耗、腐食、劣化傾向などを検出することは、維持管理の出発点である。
しかし、検査で何かが見つかったとしても、それだけで保全方針が決まるわけではない。
次に必要になるのは、その検査結果をどのように扱うかという判断である。
たとえば、配管の減肉が見つかった場合、それをすぐに補修するのか、次回定期検査まで監視しながら使用できるのか、部分的に交換するのか、あるいは運転条件を見直すのかを判断しなければならない。溶接部にきずが検出された場合も同様であり、そのきずが使用上問題となるものか、進展する可能性があるのか、補修によってかえって別のリスクを持ち込まないかを考える必要がある。
つまり、検査結果は保全判断の出発点であって、結論ではない。
圧力設備やプラント設備の維持管理では、検査によって状態を把握し、評価によって継続使用の可否を判断し、その結果に応じて補修、交換、監視、運転条件の変更などを選択する。この「検査・評価・補修」のつながりを意識することで、補修は単なる手直しではなく、設備を使い続けるための技術判断として見えてくる。[3]
補修は、設備を使い続けるための選択肢である
補修という言葉からは、壊れた箇所を直す作業をイメージしやすい。しかし、維持管理の観点から見ると、補修はもっと広い意味を持つ。
補修は、設備を安全に使い続けるために選ばれる選択肢の一つである。
設備に損傷や劣化が見つかった場合、対応策は補修だけではない。状態を監視しながら継続使用する場合もあれば、部材を交換する場合もある。損傷の進展要因が運転温度、圧力、流速、腐食環境、負荷変動などに関係している場合には、運転条件を見直すことも重要な保全策になる。設備の重要度や損傷の影響が大きい場合には、更新を検討することもある。
したがって、補修を考える際には、「補修できるか」だけでなく、「補修を選ぶことが適切か」を考える必要がある。
ここでいう「補修できる」とは、技術的・施工的に補修が可能であることを意味する。溶接できる、肉盛できる、当て板を設けられる、部材交換できる、といった短期的・局所的な可否である。
一方で、「補修を選ぶことが適切か」は、より広い判断である。補修後に安全に使い続けられるか、損傷原因を取り除けるか、再発リスクを抑えられるか、次回点検までの健全性を確保できるか、交換や更新と比べて経済的に合理的かを考える必要がある。
補修によって一時的に形状や肉厚を回復できたとしても、損傷原因が残ったままであれば、同じ損傷が再発する可能性がある。逆に、損傷が軽微で進展性も低く、次回点検まで安全に使用できると評価される場合には、直ちに補修せず、監視を強化するという判断もあり得る。
補修は、設備を元の状態に戻す作業であると同時に、今後どのように使い続けるかを決める保全判断の一部である。
補修にはどのような方法があるか
補修には、さまざまな方法がある。代表的なものとしては、補修溶接、肉盛溶接、当て板補強、部材交換、防食・表面処理などが挙げられる。[3]
補修溶接は、割れや欠陥を除去した後に溶接で補修する方法であり、圧力設備や配管などの溶接構造物では重要な補修手段である。減肉や摩耗が問題となる場合には、肉盛溶接によって肉厚や表面機能を回復させることがある。局部的な強度不足や減肉に対しては、当て板による補強が検討される場合もある。
疲労亀裂のように亀裂進展が問題となる場合には、亀裂先端近傍にストップホールを設け、応力集中を緩和して亀裂進展を抑制する考え方が用いられることがある。ただし、これは単独で恒久的な解決策になるとは限らない。実際の補修では、亀裂先端の確認、ストップホール加工、亀裂除去、必要に応じた補修溶接、補修後検査などを組み合わせて検討する必要がある。
一方で、損傷の範囲が広い場合や、材料劣化が進んでいる場合には、補修よりも部材交換が適切なこともある。配管、チューブ、板材、ノズルなどを部分的に交換することで、損傷部を取り除き、健全な部材に置き換える対応である。
また、腐食や応力腐食割れのように環境が損傷に関与している場合には、防食塗装、ライニング、溶射、コーティングなどによって環境を遮断する方法も考えられる。これは、損傷部を直接直すというよりも、損傷の進展を抑えるための補修・保全策である。
重要なのは、補修方法を損傷の種類、範囲、原因、使用環境に応じて選ぶことである。補修方法そのものに優劣があるのではなく、対象設備の状態と損傷メカニズムに合っているかどうかが重要になる。
補修するか、交換するか、監視するか
損傷が見つかったとき、補修は有力な選択肢である。しかし、補修が常に最適とは限らない。
保全判断では、損傷の形態、深さ、範囲、位置、進展性を確認したうえで、その設備をどこまで安全に使い続けられるかを評価する必要がある。圧力設備の分野では、供用適性評価、すなわちFitness-For-Service(FFS)の考え方が用いられることがある。これは、検査結果をもとに、設備が継続して供用できるかどうかを評価する考え方である。[3]
評価の結果、次回の定期検査まで安全に使用できると判断される場合には、監視を強化しながら継続使用する選択肢があり得る。一方、許容範囲を超える損傷や、進展性の高い損傷が確認された場合には、補修や交換が必要となる。
また、設備の重要度や故障時の影響も判断に関わる。停止すれば生産や供給に大きな影響を及ぼす設備、安全上の影響が大きい設備、事故時の被害が大きい設備では、より慎重な判断が求められる。リスクベースメンテナンス(RBM:Risk Based Maintenance)の考え方では、損傷の起こりやすさと、損傷が発生した場合の影響度を踏まえて、保全資源を重点的に投入する部位を決める。[2]
保全に使える人員、時間、費用には限りがある。すべての設備を同じ頻度で点検し、すべての損傷に同じ対応をすることは現実的ではない。だからこそ、補修するか、交換するか、監視するかを、リスクと重要度に応じて判断する必要がある。
技術的には補修可能であっても、中長期的に見て補修を選ぶことが合理的とは限らない。損傷原因が残る場合、材料劣化が進んでいる場合、補修後の検査が難しい場合、再発時の影響が大きい場合には、補修よりも交換や更新を選ぶ方が安全性や経済性の面で適切なことがある。
補修は、できるかどうかだけでなく、選ぶべきかどうかを含めて判断する必要がある。
損傷原因に手を打つことも保全である
補修するか、交換するか、監視するかを考える際には、損傷部そのものだけでなく、損傷を生じさせた条件にも目を向ける必要がある。
設備の劣化や損傷には、材料、構造、製作条件だけでなく、温度、圧力、流体、微量成分、流速などのプロセス条件が影響する。[1] したがって、損傷原因に手を打たないまま補修だけを行っても、同じ損傷が再発する可能性がある。
たとえば、温度が高いほどクリープ損傷や材料劣化が進みやすくなる場合がある。圧力変動や負荷変動が大きければ、疲労や熱疲労のリスクが高まることがある。流速や流れの乱れが関係する場合には、エロージョンや減肉が問題になる。腐食環境では、流体成分、温度、水分、pH、塩化物、硫化水素などの影響を考慮する必要がある。
このような場合、損傷部を補修するだけでは十分ではない。運転温度や圧力を緩和する、負荷変動を抑える、流速や流れの条件を見直す、腐食環境を改善する、点検周期を短縮するなど、運転条件や環境条件の見直しが保全上の有効な選択肢となる。
もちろん、運転条件の変更には生産性や効率への影響がある。温度や圧力を下げれば、設備への負荷は軽減できる一方で、プロセス性能や発電効率、生産量に影響することがある。そのため、運転条件の見直しは、技術部門だけでなく、運転部門、保全部門、事業部門を含めた判断になる。
それでも、損傷原因が残ったまま補修を繰り返すよりも、原因側に手を打つ方が合理的な場合は多い。
保全とは、壊れた箇所を直すことだけではない。設備を傷みにくくする条件を整えることも、重要な保全である。
補修後の確認と記録が次の保全につながる
補修は、施工して終わりではない。
補修後には、補修部が要求される品質を満たしているかを確認する必要がある。外観検査、浸透探傷試験、磁粉探傷試験、超音波探傷試験、放射線透過試験、硬さ測定、耐圧試験、漏えい確認など、対象設備や補修方法に応じた確認が行われる。
特に溶接補修では、補修部が新たな弱点になっていないかを確認することが重要である。補修溶接では、既設設備に対して新たに熱を入れるため、材料、拘束条件、残留応力、変形、熱処理の可否などを考慮する必要がある。これらの詳細は次回に扱うが、少なくとも補修後の検査と確認を含めて、補修品質を判断する必要がある。
さらに重要なのが、記録である。
どの部位に、どのような損傷があり、どのような判断で補修を選択したのか。どの方法で補修し、どの溶接材料を用い、どのような施工条件で実施し、補修後にどの検査で確認したのか。これらの情報が残っていなければ、次回点検時に補修部の状態を適切に評価することが難しくなる。
溶接補修に関する実務では、施工対象、補修目的、欠陥除去方法、溶接施工要領、PWHT、試験・検査、補修記録などを要領書や記録として残すことが重要とされている。[3]
補修記録は、単なる作業記録ではない。次の保全判断のための技術データである。
補修記録や検査記録が蓄積されれば、同種損傷の水平展開、点検周期の見直し、補修方法の改善、余寿命評価、保全計画の高度化につなげることができる。今後、センサ、IoT、AI、デジタルツインなどを活用した保全が進むとしても、その基礎になるのは、現場で得られた検査・補修・運転データである。
データ活用は、特別なデジタル技術だけで始まるものではない。まず、現場で行った判断と作業を、後から使える形で残すことから始まる。
まとめ:補修は、使い続けるための判断である
補修は、損傷部を単に元に戻す作業ではない。
検査によって設備の状態を把握し、損傷の原因や進展性を考え、残寿命、リスク、停止期間、コスト、安全性、事業影響を踏まえて、補修、交換、監視、運転条件変更などの選択肢を選ぶ。その中で、補修は設備を安全に使い続けるための重要な手段となる。
一方で、補修は万能ではない。損傷原因が残っていれば再発する可能性があり、補修そのものが新たなリスクを持ち込むこともある。だからこそ、補修の要否だけでなく、補修の可否、補修後の確認、記録、次回点検への接続まで含めて考える必要がある。
維持する技術とは、壊れたものを直す技術だけではない。設備の状態を読み取り、どのように手を入れ、どのように使い続けるかを判断する技術である。
次回は、その中でも代表的な技術である補修溶接に着目する。補修溶接は、既に使用履歴を持つ材料に再び熱を加える行為であり、新設時の溶接とは異なる難しさを持つ。材料劣化、拘束条件、熱履歴、施工条件、補修後検査といった観点から、補修溶接がなぜ難しいのかを考える。
参考文献
[1] 鴻巣真二, "第1回 経年損傷", 圧力技術, Vol.38, No.6, pp.375–394, 2000年.
[2] 富士彰夫, "RBMの火力発電用ボイラへの適用事例", 圧力技術, Vo.45, No.3, pp.154–161, 2007年.
[3] 山本栄一, "プラント圧力設備の溶接補修", 溶接学会誌, Vol.81, No.8, pp20-27, 2012年.

