J-PlatPatで見る保全技術の動向メモ
― ドローン点検・AI検査・保全データ活用の簡易調査 ―
本ページは、「維持する技術」シリーズ第5回「保全はどこまで進化するのか」の補足資料として作成したものである。第5回本文では、センサ、ドローン、AI、データ活用が、検査・補修の記録を次の保全判断へつなげる流れを整理している。
調査目的
本ページでは、保全技術の変化を、特許情報から簡易的に確認する。
「維持する技術」シリーズでは、これまで非破壊検査、補修判断、補修溶接について整理してきた。これらはいずれも、設備を安全に使い続けるための技術である。
近年は、ドローン、AI、データベース、保全支援システムなどの技術が、検査や保全の現場に関わるようになっている。そこで本ページでは、J-PlatPatを用いて、保全技術の変化を次の三つの観点から簡易的に確認した。
| 検索式 | 観点 | 保全業務上の意味 |
| A | ドローンを用いたインフラ・構造物点検 | 現場を見に行く技術 |
| B | AI・機械学習を用いた非破壊検査 | 取得データを解析・判定する技術 |
| C | 点検・検査・補修データを活用した保全支援 | 記録や履歴を次の判断に使う技術 |
本調査は、厳密な網羅分析ではない。検索式に基づく簡易的な確認であり、保全技術の全体像を断定するものではない。あくまで、特許情報から技術開発の方向性を眺めるための技術動向メモである。
検索条件
検索データベースは、J-PlatPatである。
検索対象期間は、各検索式共通で、公知日/発行日を基準として 2015年2月1日から2025年1月31日 とした(※公開タイムラグを考慮して、確実に公知化された10年間を対象にした)。
なお、本ページで示す年別件数は、公知日/発行日に基づく件数である。出願年そのものではないため、研究開発や出願活動の時期とは一定の時間差がある。
検索式
検索式A:ドローンで現場を見に行く技術
(ドローン/TX)*(点検/TX)*(インフラ/TX+構造物/TX)
検索式Aでは、「ドローン」「点検」「インフラ/構造物」を組み合わせた。
これは、人が近づきにくい場所や広域の構造物を確認し、画像や計測データを取得する技術を把握するための検索式である。
ただし、「ドローン」という語に依存しているため、「無人航空機」「UAV」「飛行体」など別表現の文献は十分に拾えていない可能性がある。
検索式B:AI・機械学習で検査データを解析する技術
(非破壊検査/TX)*[(AI/TX)+(人工知能/TX)+(機械学習/TX)]*(インフラ/TX+構造物/TX)
検索式Bでは、「非破壊検査」と「AI/人工知能/機械学習」を組み合わせ、さらに「インフラ/構造物」を含む文献を対象とした。これは、検査画像、信号、測定データなどをAIや機械学習で解析・判定する技術を確認するための検索式である。
ただし、「非破壊検査」という語に依存しているため、外観検査、設備診断、画像診断などのうち、非破壊検査と明示されない文献は十分に含まれていない可能性がある。
検索式C:記録や履歴を次の保全判断に使う技術
[(点検履歴/TX+検査履歴/TX+補修履歴/TX)*(保全/TX+維持管理/TX+保全支援/TX+維持管理支援/TX)*(橋梁/TX+道路/TX+鉄道/TX+トンネル/TX+配管/TX+プラント/TX)]
+
[(点検データ/TX+検査データ/TX+補修データ/TX+点検履歴/TX+補修履歴/TX)*(データベース/TX+管理システム/TX+保全支援/TX+維持管理支援/TX+健全度評価/TX+劣化予測/TX)*(橋梁/TX+道路/TX+鉄道/TX+トンネル/TX+配管/TX+プラント/TX)]
検索式Cでは、点検履歴、検査履歴、補修履歴、点検データ、検査データ、補修データといった語を、保全支援、維持管理支援、健全度評価、劣化予測などの語と組み合わせた。これは、点検や補修の記録を単なる保管資料としてではなく、次の保全判断に活用する技術を把握するための検索式である。
ただし、管理システム、支援システム、データベースといった語は広いため、検索結果には一部ノイズが含まれる。
件数推移
各検索式の検索結果件数は、次のとおりであった。
| 公知年 | 検索式A | 検索式B | 検索式C |
| 2015 | 0 | 12 | 34 |
| 2016 | 6 | 7 | 31 |
| 2017 | 33 | 16 | 45 |
| 2018 | 27 | 44 | 49 |
| 2019 | 52 | 59 | 50 |
| 2020 | 92 | 86 | 72 |
| 2021 | 93 | 87 | 66 |
| 2022 | 95 | 123 | 74 |
| 2023 | 78 | 114 | 97 |
| 2024 | 116 | 98 | 75 |
| 2025 | 6 | 8 | 9 |
| 合計 | 598 | 654 | 602 |
検索式Aでは、2016年時点では6件であったが、2019年に52件、2020年に92件となり、2020年以降は高い水準で推移している。このことから、ドローンを用いたインフラ・構造物点検に関する技術は、2010年代後半から特許文献上で目立つようになってきたと考えられる。
検索式Bでは、2018年以降に件数が増加し、2022年から2023年にかけて100件を超える水準となっている。このことから、非破壊検査にAIや機械学習を適用する技術は、近年一定数の出願文献が確認される技術領域になっているといえる。
検索式Cでは、2015年時点から一定数の文献が確認され、2020年以降も継続的に件数が見られる。これは、点検・検査・補修の記録やデータを保全・維持管理に活用する考え方が、ドローンやAIのような新しい技術トピックとは別に、以前から継続して検討されてきたことを示唆している。
なお、2025年は1月31日までのデータであるため、他年と単純比較しない。
出願人傾向
検索式A:ドローンで現場を見に行く技術
検索式Aでは、ドローン・遠隔点検、通信、画像取得、IT、点検サービスに関わる事業者が目立った。
この結果から、ドローンを用いたインフラ・構造物点検技術は、単に機体を飛ばす技術だけではなく、遠隔制御、画像取得、通信、点検対象へのアクセス、取得データの処理を含む複合技術として検討されていると考えられる。
また、検索結果上では、ゼネコン、橋梁メーカー、重工メーカーといった構造物を製作・施工する事業者よりも、画像取得、通信、遠隔点検、点検サービスに関わる事業者が比較的目立った。これは、保全技術の一部が、構造物そのものを作る技術から、状態を見に行き、データとして取得する技術へ広がっていることを示唆している。
ただし、この結果は検索式Aに基づくものであり、ドローン点検全体の市場構造や実用化状況を直接示すものではない。
検索式B:AI・機械学習で検査データを解析する技術
検索式Bでは、総合電機、検査・計測、画像・光学、研究機関、インフラ事業者、重工・エネルギー設備関連企業が確認された。
検索式Aと比べると、検索式Bでは「検査データをどのように評価するか」に関わる事業者が目立つ。これは、AIや機械学習の活用が、単なる情報処理だけでなく、非破壊検査、画像処理、信号処理、損傷判定、健全性評価と結びついているためと考えられる。
したがって、AIを用いた保全技術は、アルゴリズム単独で成立するものではない。検査対象、損傷メカニズム、検査手法、取得データの品質、現場での判定基準と結びついて初めて意味を持つ技術領域であるといえる。
ただし、検索式Bは「非破壊検査」という語を含む文献に限定しているため、AIを用いた外観検査や設備診断全般を網羅しているわけではない。
検索式C:記録や履歴を次の保全判断に使う技術
検索式Cでは、総合電機、インフラシステム、計測・制御、エネルギー設備、通信、橋梁・土木構造物、保全サービスに関わる事業者が確認された。
検索式Cの特徴は、検索式AやBに比べて、点検管理、道路維持管理、構造物管理、劣化予測、保全支援、設備保全管理といった文献が目立つ点である。
この結果から、点検・検査・補修の記録やデータは、単なる帳票ではなく、維持管理業務、劣化予測、保全計画、次回点検の判断に使われる情報基盤として検討されていると考えられる。
ただし、検索式Cでは「管理システム」「支援システム」「データベース」など広い語を含むため、検索結果には一部ノイズが含まれる。そのため、Cの結果は、出願人ランキングだけでなく、個別文献の内容を確認しながら解釈する必要がある。
共同出願から見える連携
共同出願を見ると、保全技術が単一分野だけで完結しにくいことが分かる。
なお、ここでは「出願人/権利者」欄に複数主体が記載されている文献を共同出願らしきものとして扱った。機械的な抽出であるため、厳密な名寄せや企業グループ整理は行っていない。
検索式Aの共同出願例
検索式Aでは、ドローン・点検サービス関連企業と、電力、ガス、道路、水インフラ、通信などの事業者による共同出願が確認された。
たとえば、ドローン・ロボット点検企業と電力インフラ事業者、インフラ点検サービス企業とガスインフラ事業者、点検サービス・ドローンメーカー・通信インフラ事業者の組み合わせなどが見られた。
これは、ドローンを用いた点検技術が、機体単体の技術ではなく、現場適用、飛行・移動制御、通信、画像取得、点検対象へのアクセスを含む技術領域であることを示唆している。
検索式Bの共同出願例
検索式Bでは、道路・鉄道・ガスなどのインフラ事業者と、非破壊検査会社、検査装置メーカー、大学・研究機関、総合電機企業との共同出願が確認された。
たとえば、道路インフラ事業者と検査ソリューション企業、鉄道事業者と非破壊検査企業、ガス事業者と大学、ゼネコンと研究機関の組み合わせなどである。
これは、AIや機械学習による検査支援が、単なるアルゴリズム開発ではなく、現場データ、検査技術、損傷メカニズム、設備運用を結びつける領域であることを示唆している。
検索式Cの共同出願例
検索式Cでは、道路会社、鉄道事業者、下水道事業者、建設コンサル、大学・研究機関、総合電機、計測・制御企業などの組み合わせが確認された。
たとえば、構造物の点検・補修支援、道路維持管理、点検履歴管理、劣化予測、設備点検支援、変状の時系列管理に関する文献が見られた。
これは、点検や補修の記録を単なる保管資料として扱うのではなく、劣化予測、維持管理業務、保全計画、次回点検の判断に使う情報基盤として扱う技術が検討されていることを示している。
読み取れる事実から導かれる示唆
今回の簡易調査から、保全技術の変化は、次の三つの流れとして捉えることができる。
第一に、保全技術は、現場を見に行く技術へ広がっている。
ドローンを用いることで、高所、広域構造物、人が近づきにくい場所の状態を確認しやすくなる。この段階では、飛行体、通信、画像取得、位置情報、遠隔制御が重要になる。
第二に、保全技術は、取得したデータを解析・判定する技術へ広がっている。
非破壊検査にAIや機械学習を組み合わせることで、検査画像、超音波信号、損傷候補、劣化傾向の判定を支援する技術が検討されている。ただし、AIは技術者の判断を置き換えるものではなく、判断材料を整理する技術として位置づけるべきである。
第三に、保全技術は、記録や履歴を次の判断に使う技術へ広がっている。
点検履歴、検査履歴、補修履歴、点検データ、検査データが蓄積されれば、劣化予測、健全度評価、点検周期の見直し、保全計画、類似設備への水平展開に使うことができる。
これらをまとめると、保全技術は、単一の装置や作業の高度化にとどまらない。現場へアクセスし、データを取得し、解析し、履歴として蓄積し、次の判断に使うという一連の流れとして高度化していると考えられる。
留意点
本調査は、J-PlatPatを用いた簡易的な特許情報調査であり、厳密な網羅分析ではない。
検索結果は、検索式の設計に大きく依存する。たとえば、「ドローン」「非破壊検査」「インフラ」「構造物」「保全支援」「管理システム」などの語は、文献によって使われ方が異なる。そのため、関連文献の漏れや、意図しない文献の混入を完全に避けることはできない。
また、出願人名の名寄せや、企業グループ単位での統合は行っていない。共同出願についても、「出願人/権利者」欄に複数主体が記載されている文献を機械的に確認したものであり、厳密な共同研究関係や事業提携を示すものではない。
さらに、特許文献数は、市場規模、実用化状況、技術優位性を直接示すものではない。特許情報から読み取れるのは、企業や研究機関がどのような課題に着目し、どのような解決手段を検討しているかという技術開発の一側面である。
したがって、本ページの結果は、保全技術の全体像を断定するものではなく、技術動向を読み解くための補助的な材料として扱うべきである。
参考情報
[1] 独立行政法人工業所有権情報・研修館:J-PlatPat 特許情報プラットフォーム
[2] 筆者によるJ-PlatPat簡易調査結果
調査対象:国内特許文献
調査期間:公知日/発行日 2015年2月1日〜2025年1月31日
検索観点:A)ドローン点検、B)AI・機械学習を用いた非破壊検査、C)点検・検査・補修データを活用した保全支援

