維持する技術②|壊れる前に見つける技術
― 非破壊検査は何を支えているのか ―
はじめに
前回は、社会インフラやエネルギー設備の高経年化を背景に、「維持する技術」の重要性について整理した。
すべての設備を新しく作り替えることはできない。限られた予算、人員、停止期間の中で、既存設備を安全に使い続けるためには、設備の状態を正しく把握し、必要なタイミングで補修や更新を判断する必要がある。
その出発点となるのが、検査である。
なかでも非破壊検査は、設備や構造物を壊さずに、その表面や内部の状態を確認する技術である。社会インフラ、プラント、発電設備、船舶、橋梁、工場設備などを維持するうえで、非破壊検査は欠かせない基盤技術である。
本稿では、「維持する技術」の中で非破壊検査がどのような役割を担っているのかを考える。
維持管理の出発点は状態把握である
設備は、使用中に少しずつ劣化する。
金属材料であれば、腐食、摩耗、疲労、クリープ、熱影響、応力腐食割れなど、使用環境や荷重条件に応じてさまざまな損傷が生じる可能性がある。外から見える損傷もあれば、内部で進行する損傷もある。表面上は健全に見えても、内部に割れや減肉が存在する場合もある。
プラント設備における経年損傷は、材料脆化、腐食減肉、割れなどを含む広い概念であり、冶金的損傷、力学的損傷、環境影響による損傷などに分類して捉えることができる。実際の設備では、材料、使用温度、応力状態、腐食環境、施工履歴などが重なり合って損傷が進行する[3]。
したがって、維持管理において重要なのは、設備の状態を把握することである。
状態を把握できなければ、補修すべきか、継続使用できるのか、更新すべきかを判断できない。逆に、状態を適切に把握できれば、過剰な補修や更新を避けつつ、安全性を確保しながら設備を使い続ける判断が可能になる。
非破壊検査は、この状態把握を支える技術である。
非破壊検査とは何か
非破壊検査とは、対象物を破壊せずに、その性能や健全性を確認する技術である。
代表的な方法としては、外観検査、放射線透過試験、超音波探傷試験、磁粉探傷試験、浸透探傷試験、渦流探傷試験などがある。対象物の材料、形状、検出したい損傷の種類、検査できる面、現場条件などに応じて、適切な方法を選択する[1]。
たとえば、表面に開口した微細な割れを検出するには浸透探傷試験が用いられる。強磁性材料の表面や表層のきずを確認するには磁粉探傷試験が有効である。内部きずや板厚、腐食減肉を評価する場合には、超音波探傷試験が広く用いられる。放射線透過試験は、内部の不連続部を画像として確認できる方法であり、溶接部の品質確認に広く用いられている[1]。
ただし、非破壊検査は、単に装置を当てればよいものではない。各手法には長所と短所があり、適用限界もある。同じ方法を用いたとしても、試験対象物の形状、表面状態、材質、検査条件によって結果の信頼性は変わる[1]。
つまり、非破壊検査は、単に「きずを探す技術」ではない。どのような損傷を想定し、どの方法で、どの範囲を、どの程度の精度で確認するのかを設計する技術でもある。
溶接構造物における非破壊検査
溶接構造物では、溶接継手が重要な検査対象となる。
溶接部は、形状、材料組織、残留応力、機械的性質などが周囲の母材と連続していない部分である。そのため、構造物の種類や使用条件によっては、疲労損傷、腐食損傷、応力腐食割れなどの評価上、重要な確認箇所となる場合がある。
非破壊試験は、溶接構造物の製作時の品質保証と、保守メンテナンス時の設備診断の両方で重要な役割を担ってきた。製造時には、溶接部が要求品質を満たしているかを確認するために用いられ、供用後には、老朽化した発電プラントや石油・石化プラントなどの保守検査にも適用されてきた[2]。
また、溶接は一般に特殊工程とされる。ここでいう特殊工程とは、製品を破壊せずに最終検査や試験を行っても、品質の良否や要求基準を満たしているかを完全には検証しにくい製造工程を指す。
そのため、溶接構造物の品質は、完成後の検査だけで担保されるものではない。施工条件、材料管理、入熱管理、溶接作業者の技能、施工後熱処理などを適切に管理し、さらに非破壊検査によって溶接部の状態を確認することで、要求品質を満たしているかを総合的に判断する。
この意味で、製造時の非破壊検査は、溶接によって製作された社会インフラや設備が使用される前に、溶接部の健全性を確認する重要な品質保証プロセスである。
ただし、製造時の非破壊検査に合格した溶接継手であっても、それは「物理的に欠陥が一切存在しない」ことを意味するわけではない。非破壊検査には検出限界があり、適用される規格や基準には、使用上問題となる有害な不連続を管理するための許容基準が設けられている。
ここで注意したいのは、「きず」と「欠陥」は同じ意味ではないという点である。JIS Z 2300では、非破壊試験によって検出された不連続部を「きず」とし、そのうち仕様書や基準などで不合格と判定されたものを「欠陥」と定義している[2]。
したがって、検査で指示が得られたことは、直ちに使用不可を意味するわけではない。検出された指示を、規格や基準に照らして評価し、その設備を安全に使い続けられるかを判断する必要がある。
供用中の溶接構造物では、溶接入熱や残留応力、補修溶接履歴が損傷挙動に影響する場合もある。たとえば、ステンレス鋼の応力腐食割れでは、材料、環境、応力の3因子が重畳することが重要であり、溶接入熱による鋭敏化や溶接残留応力がSCCの発生・進展に関与する場合がある[4]。
このため、溶接構造物では製造時の品質確認だけでなく、供用中の点検も重要になる。長期運用中には、疲労、腐食、摩耗、熱影響、応力集中などにより、初期には問題とならなかった不連続が損傷として顕在化したり、新たな損傷が発生したりする可能性がある。
非破壊検査は、こうした変化を壊さずに把握するための重要な技術である。
検査結果は、保全判断へ変換される
非破壊検査で重要なのは、きずや減肉を見つけることだけではない。検査で得られた情報をもとに、その設備を次回点検まで継続使用できるのか、補修が必要なのか、運転条件を見直すべきなのか、あるいは更新を検討すべきなのかを判断することが重要である。
電力設備では、点検によって異常箇所の有無を確認するだけでなく、き裂、減肉、摩耗などの経年変化に着目し、何らかの変化が確認された場合には、その劣化メカニズムを究明する。そのうえで、非破壊検査によって現在の状態を把握し、劣化メカニズムに基づいて今後の健全性を評価し、補修や取替えのタイミング判断につなげる考え方が示されている[5]。
たとえば、ボイラや高温配管を有する火力発電設備を考えると分かりやすい。
ボイラ、主蒸気管、再熱蒸気管、過熱器・再熱器チューブなどは、高温・高圧環境で長期間使用される。こうした設備では、腐食減肉、疲労、クリープ、応力腐食割れなどの経年損傷を想定した点検が必要になる[3]。
定期的な検査では、外観検査、肉厚測定、超音波探傷試験、浸透探傷試験、磁粉探傷試験、内視鏡検査などを組み合わせて、腐食、減肉、割れ、変形、漏えい痕、溶接部の損傷などを確認する。高温部材では、必要に応じて組織観察や硬さ測定などを用い、クリープ損傷や材質劣化の程度を評価する場合もある[3]。
ここで得られた検査結果は、単独で判断されるわけではない。検出されたきずや減肉について、寸法、位置、形状、材料特性、作用応力、使用温度、運転履歴、過去の検査結果などを踏まえ、規格や評価基準に基づいて評価される。
火力発電ボイラに対するRBMの適用事例では、設備を構成する部位ごとに損傷メカニズムを整理し、検査法や余寿命診断法を対応づけたうえで、リスク評価を保全計画の意思決定に用いている。そこでは、余寿命がほとんど残らないと評価された部位を交換する判断、表面検査だけでは不十分な部位に対してTOFD法へ検査方法を変更する判断、低リスク部位の検査を省略する判断などが示されている[6]。
つまり、非破壊検査は「異常を見つける技術」であると同時に、保全判断のための情報を取得する技術でもある。
評価の結果、次回点検まで継続使用できると判断されることもあれば、補修が必要になることもある。場合によっては、運転条件を見直したうえで監視を強化する、次回定期検査まで補修を持ち越す、あるいは配管やチューブ群の大規模更新工事を検討する、といった判断につながる。
この考え方は、予知保全、Risk Based Inspection、Fitness for Service、Risk Based Maintenanceといった考え方とも関係する。設備の損傷発生確率や損傷後の影響を踏まえて検査対象や検査間隔を考えること、また検出された損傷に対して継続使用の適合性や寿命を評価することは、維持管理における重要な視点である[3][6]。
このように、維持管理における非破壊検査は、単なる測定作業ではない。検査方法を理解し、得られた指示の意味を読み取り、材料劣化や破壊力学、疲労、腐食、クリープ、規格・基準の考え方を踏まえて、継続使用、補修、更新の判断へつなげる専門技術者の存在が不可欠である。
供用下検査とデータ活用の時代へ
維持管理における非破壊検査は、製造工場内で行う検査とは異なる難しさを持っている。
対象となる設備は大型であり、高所、狭隘部、配管ラック内、保温材下、水中など、アクセスが難しい場所にある場合も多い。また、発電設備やプラント設備では、停止期間が限られるため、限られた時間の中で効率よく検査を行う必要がある。
電力設備の非破壊検査では、足場組立などの付帯作業、機器の停止や分解、人手依存、点検物量の多さ、熟練技術の必要性などが長年の課題として挙げられている[5]。
そのため、非破壊検査には、現場適用性と省人化が強く求められる。
近年では、検査作業の自動化、画像化、高精度化、高能率化を目的とした技術が発展している。たとえば、TOFD法、フェーズドアレイUT、デジタル放射線画像などは、従来は熟練技術者の技量に依存していた試験結果の取得や評価を、より客観的に行う方向へ進める技術として位置づけられる[2]。
さらに、電力設備の分野では、IoTセンサによる配管減肉の遠隔監視、ロボットによるタービン発電機内部点検、ドローンやAIを活用した送電線巡視・点検など、非破壊検査と先進技術を組み合わせた取り組みも進められている[5]。
たとえば、配管肉厚の検査は、従来、プラント停止中の定期点検期間に行われることが多く、足場の組立、保温材の取り外し、検査箇所のマーキング、磨きなどの準備作業が必要であった。これに対し、薄膜超音波センサと無線機能付き連続肉厚測定装置を用いた運転中モニタリングにより、遠隔地から配管肉厚データを確認する取り組みも進められている[5]。
もう一つ重要なのが、検査データの活用である。
非破壊検査では、画像、波形、肉厚測定値、位置情報、過去の検査履歴など、多くのデータが得られる。これらを蓄積し、過去データと比較できれば、単発の異常検出だけでなく、劣化の進行傾向を把握することができる。
また、検査結果の判定には、検査員の経験やノウハウが大きく関わる。たとえば、超音波探傷のエコー波形、放射線透過画像、外観検査画像などでは、欠陥指示と疑似指示の判別や、ノイズの中から有意な信号を拾う判断が必要になる。
非破壊試験結果の信頼性には、使用する装置・機材の性能、試験方法の要領・手順、試験技術者の技量や経験が影響する。さらに、実際の対象物に応じたNDT手順や指示書の作成、対象物特有の損傷に関する知識、経験ある監督者の指導なども重要である[2]。
このことは、非破壊検査のデジタル化が熟練検査員を不要にするものではないことを示している。むしろ、熟練検査員が行ってきた判断をデータとして蓄積し、再現可能な形に近づける取り組みである。
非破壊検査のデジタル化とは、検査装置を高度化するだけでなく、検査員の暗黙知を形式知化し、保全判断に活用しやすくする取り組みでもある。
検査は補修と保全の入口である
非破壊検査は、維持管理の入口である。
設備や構造物の状態を把握できなければ、補修、延命、更新の判断はできない。逆に、検査によって状態を把握できれば、必要な箇所に必要な対策を行い、設備を安全に使い続けるための判断が可能になる。
重要なのは、非破壊検査を単なる測定作業として捉えないことである。
検査方法を選定し、適切な条件でデータを取得し、その結果を規格や評価手法に基づいて解釈し、保全判断へつなげる。そこまで含めて、非破壊検査は「維持する技術」の中核に位置づけられる。
次回は、検査によって得られた情報を踏まえたうえで、設備を使い続けるための選択肢である「補修」について考える。補修溶接、肉盛溶接、部材交換、補強などは、単に壊れたものを直す技術ではない。限られた設備を安全に使い続けるための重要な技術である。
参考文献
[1] 横野泰和, "非破壊検査の種類と特徴", 溶接学会誌, Vol.59, No.6, pp.410–413, 1990.
[2] 横野泰和, "溶接・接合部の非破壊試験法と検査", 溶接学会誌, Vol.78, No.3, pp.213–223, 2009.
[3] 鴻巣真二, "第1回 経年損傷", 圧力技術, Vol.38, No.6, pp.375–394, 2000.
[4] 中山元, "応力腐食割れ事例とその対策", 溶接学会誌, Vol.89, No.5, pp.349–350, 2020.
[5] 西沢孝壽, "電力設備の健全度評価における非破壊検査の現状について", 日本機械学会誌, Vol.123, No.1215, pp.18–21, 2020.
[6] 富士彰夫, "RBMの火力発電用ボイラへの適用事例", 圧力技術, Vol.45, No.3, pp.154–161, 2007.
